SEMINAR ARCHIVE

セミナーアーカイブ Vol.3

高齢動物で増加している運動器疾患の健康維持プログラム
~日常管理として何をするか?何を指導するか?~

講師 枝村 一弥
獣医師/博士(獣医学)/小動物外科専門医/日本大学 准教授(獣医外科学研究室)

2018年8月開催

犬や猫の寿命が延び、高齢化が進むにつれて、人間と同様に運動器に問題を抱える動物が多くみられるようになってきました。そこで今回、小動物外科専門医としてご活躍されている枝村一弥先生を講師としてお招きし、高齢動物の運動器の健康維持のために求められる日常管理をテーマにセミナーを開催いたしました。枝村先生は、「我々の学習は高度医療に偏る傾向がみられるが、ペットを飼う理由は“一緒に散歩をしたり、元気に遊んでいる姿を見ること”が原点であることを忘れてはいけない」と語り、症状発現前の対処を目指した獣医師主導型のプログラムについて解説しました。是非ご覧ください。

ペットと飼い主さんの高齢化

犬と猫の平均寿命はここ10年で大幅に延び、高齢化が進んでいることから、介護や福祉のサービスを求める声が多く聞かれます。2014年に実施された平均寿命の調査1)では、過去25年間で犬は1.5倍、猫は2.3倍に延びたと報告されていることから、今後は高齢期医療をとらえた獣医師の存在が重要になると考えられます。また、新たに犬や猫を飼う方は50歳代が最も多いことから2)、10年後には飼い主さんとペットの老々介護が問題になることが予想されます。高齢の飼い主さんが、足や腰の悪い犬や猫の世話をすることは大変です。そのため、ペットの運動機能を維持してあげることは獣医師の責務であると考えられます。

運動器疾患における予防的概念の導入

 現在、私は高齢動物の運動機能の維持のための獣医師主導型プログラム(図1)を推奨しています。一次診療で診られる運動器疾患の症例は、すでに跛行などの症状を発現していることが多いですが、これまでは、症状を発現していない症例(図1の青部分)に対してどのように対処すべきかということはあまり議論されていませんでした。そこで、高齢動物に対しては、内科的または外科的治療が必要となる前に運動器検診をおこない、エクササイズやサプリメントの使用などを含めた、運動機能を維持するためのプログラムを実施するべきであるという考えが推奨されるようなってきました。
人医療では、厚生労働省が運動器障害をロコモティブシンドローム(通称:ロコモ)と称し、要介護の三大要因の一つとして啓蒙活動をしています。ロコモの原因疾患には、変形性関節症(Osteoarthritis:OA)や椎間板ヘルニアなど、動物にもみられる疾患が多数挙げられています(表1)。


  • 図1 高齢動物の運動機能の維持のための 獣医師主導型プログラム

  • 表1 ロコモの原因疾患(ヒト)

犬の変形性関節症

犬のOAの推定発症率は20~25%(飼育頭数5頭中1頭)といわれています3)。OAは、関節軟骨の変性・破壊された結果、骨と軟骨の増生が起こり、その刺激によって二次性滑膜炎が生じて、初めて痛みを感じます。つまり、症状があらわれて、X線画像で異常が認められたときにはすでに最終段階であり、この時点からサプリメントの使用や機能維持のエクササイズをおこなってもあまり効果は実感できません。

日本大学動物病院に来院した10歳以上の犬524例を対象にOAおよび変形性脊椎症のいずれかの罹患率を調査した結果、12歳以上の罹患率は45%以上(評価対象436例)でした。大型犬での発生率は74%であり、小型犬の34%と比較して高い傾向にあることが示唆されています。また、品種別の発生率はポメラニアンが最も高く、88%でした。さらに重要なことは、疾患の症状に気づいていた飼い主さんの割合が、OAで50.7%、変形性脊椎症で7.6%しかなく、多くの症例で症状が見逃されてることが明らかになったことです(図2)。この「気づいていない飼い主さん」をいかに来院させるかということが今後のポイントになります。犬の慢性疼痛に関する啓蒙ツールとしては、動物のいたみ研究会が作成したチェックシート4)があるので、活用してみるとよいでしょう。


  • 図2 症状を把握していた飼い主さんの割合(%)

猫の変形性関節症

猫のOAおよび変形性脊椎症に関する研究では、12歳以上の猫の90%にOAが存在し、病変はとくに肘関節に多いという報告があります5)。また、脊椎症は腰仙椎領域での発現が多いとしていて5)、高齢猫がジャンプをしなくなる理由として考えられます。さらに別の報告では、6歳以上の猫の61%、14歳以上の82%で1つ以上の関節にOAが存在したとしています6)。これらのことから、高齢猫ではかなりの割合でOAが存在していると考えられます。

日本大学動物病院に来院した10歳以上の猫730例を対象にOAおよび変形性脊椎症のいずれかの罹患率を調査した結果、12歳以上の罹患率は70%近く(評価対象228例)、加齢とともに罹患率の増加傾向がみられました。品種別の発生率は、スコティッシュ・フォールドが骨軟骨異形成症の有無にかかわらず100%でした。また、変形性脊椎症に罹患する猫の52%は、変性性腰仙椎狭窄症が認められました。

運動器検診の進め方

ロコモが疑われる犬や猫が来院したら、まず問診、視診(立位・座位)、歩行検査、筋量と関節可動域の測定、一般的な触診、整形外科学的検査をおこない、それらに異常がみつかった場合に画像検査を実施します。画像検査で異常がない場合は、半年~1年後に再検査を実施します。一方、画像検査で異常が認められた場合は、歩行異常のある症例に対してのみ内科的または外科的治療を開始します。つまり、この段階で歩行異常のない症例は早期発見と考えることができ、その後の定期検診、サプリメントの使用、エクササイズなどをおすすめします(図3)。


  • 図3 運動器検診のフロー

  • 図4 サプリメントの一例

変形性関節症の治療薬

運動器疾患で生じる痛みは、関節の滑膜における炎症性疼痛(侵害受容性疼痛)と脊椎疾患による知覚過敏に分けられ、世界小動物獣医師会(WSAVA)のガイドライン7)に則った疼痛管理をおこなうことが推奨されます。現在、OAの動物の疼痛管理は非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が主流で、なかでもシクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)に対する高選択性の薬剤あるいは完全阻害剤が選ばれます。通常、NSAIDsは14日間以上の投与で明らかな鎮痛効果が得られるとされているので、日本大学動物病院では2週間を1単位として処方しています。

わが国で猫に使用可能なNSAIDsはメロキシカムとロベナコキシブがありますが、承認された投与期間はそれぞれ5日間と6日間であり、とくに高齢猫に対する長期投与は、副作用として腎不全が懸念されています。国際猫医学会(ISFM)と全米猫獣医師協会(AAFP)が公表した猫へのNSAIDsの長期投与に関するガイドライン8)では、高齢猫において有害事象を発現させないポイントとして「肥満齢では理想体重に基づいて初回投与量を設定」「効果の認められる最小有効量での投与」「減量を行う際には回数を減らすのではなく、1回量を減らしていく(漸減法)」ということを挙げています。日本大学動物病院でもガイドラインに則った疼痛管理を実施しており、NSAID投与開始から1週および4週後に腎臓、肝臓などのモニターをおこなっています。

サプリメントの使用や生活指導

OAにおけるサプリメントの使用目的を大別すると、軟骨保護と抗炎症作用があります。グルコサミンは軟骨保護の成分として知られますが、近年ではNSAIDsとは異なる機序の抗炎症作用があると考えられています。ヒトのO st e o a r t h r it i sResearch Society International(OARSI)や日本整形外科学会のOAの診療ガイドラインでは、グルコサミンとコンドロイチン硫酸は軟骨保護目的での使用は推奨されてはいないものの、症状緩和目的としては一定の理解が得られています9)。

抗炎症作用のあるサプリメント成分は、ω-3脂肪酸やボスウェリア酸などが知られています(図4)。なかでも、PE ダーマセレクト ジョイントは、犬に対する主要なアレルゲンを含まないというユニークな特徴があり、ボスウェリア酸に加え、通常のグルコサミンよりも利用率が3倍高いN-アセチルグルコサミン、抗炎症作用が高いE型コンドロイチンなどの新規成分を多く含んでいます。また、脊髄・脊椎疾患ではフリーラジカルによる二次性の損傷予防のため、ビタミンB製剤や抗酸化剤などのサプリメントが用いられていますが、現在、日本大学動物病院 ではこれらを1剤に配合したPE ダーマセレクトニューロ(図4)を採用しています。

 肥満と関節疾患は密接な関係があり、体重のコントロールが非常に重要です。グルコサミンやω-3脂肪酸が添加された減量用の療法食などの使用に加え、引き紐歩行や座り立ち運動のようなホームエクササイズもプログラムに取り入れましょう。高齢犬でも1日に30~60分程度の運動が適切であると考えられます。

ペットの高齢化を支えていくためには、症状が発現して治療が必要になる前の犬や猫を検診で早めに察知し、サプリメントの使用、エクササイズや生活指導をしていくことが求められます。また、このような取り組みは、来院率を上げる手段の一つとも考えられ、これからの獣医療の生き残りのポイントになってくるのではないでしょうか。

1) 林谷秀樹ほか. JSAVA NEWS. 156: 22-25, 2017
2) ペットフード協会ホームページ「平成25年度 全国犬・猫飼育実態調査 ・猫飼育実態調査 結果」
3) Johnston SA. Vet Clin N Am Small Anim Pract 27, 699-723, 199 7
4) 公益財団法人 動物臨床医学研究所ホームページ「慢性疼痛に関するポイントとチェックリスト」
5) Hardie EM, et al. J Am Vet Med Assoc. 220: 628-32, 2002
6) Slingerland LI, et al. Vet J. 187: 304-309, 2011
7) Mathews KJ, et al. Small Anim Pract. 55: E10-68, 2014
8) Sparkes AH, et al. J Feline Med Surg. 12: 521-38, 2010
9) 津村 弘. 日本内科学会雑誌. 106: 75-83, 2017

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